まきおの『こんな人生だからこそ』

第10章 「たった一度の脱走」前編

一、思い出に浸りながら・・・。

 私の長い学院生活の中で、たった一度だけ脱走した事がある。
その記憶を思い起しながら「今では本当に良い思い出となって残っているな〜・・・。」と思いながら書き始めようとしている。

 思えば、学院生活は当時の私にとっては厳しく辛い学院生活。正確には学院生活と言うより寮生活が辛かったなぁ〜。「太陽は沈まない」というリンチもあったし・・・。

 そんな厳しく辛い寮生活であったにも拘らず、脱走したのは一度。もちろん今と昔では時代が違うから、いくら学院(現在は学園)といえどもリンチなどは今は無いとは想うが・・・。
 あの学院は脱走しようと思えば何時でも出来たのに何故一度しか逃げないで居られたのだろうと我ながら信じられない。(寮長先生が怖かったから?)

 塀に囲まれて在った訳でもなければ、窓に鉄格子が付いていた訳でもない。
 まして遠く、人里離れた場所に在った訳でもない。

 学院に入った当初は確かに「こんな所から早く逃げ出したい!」と、思った時は幾度もあるが、実際逃げたのは一度だけ。その脱走も、実は全く計画を立ててはいなかった。と言うより、脱走しようとさえ当の本人は全く考えてはいなかった。(ここまでの話では妙な話だが・・・。)

 捕まって戻って来た時には当然の如く脱走した動機を聞かれた訳だが、その動機は後に出てくるが、答えた理由があまりに馬鹿げた答えであったからだと思うが、こっぴどく寮長先生に叱られた。と言うより、メチャクチャ殴られた。

 いずれその時の「メチャクチャ殴られた」時の様子も書くが、この脱走は私一人の単独犯では無くもう一人相棒がいた。 そして、その脱走の主犯は私では無く、その相棒こそがこの脱走の「言い出しっぺ」だったが、私達が捕まって白状するまで、いや白状した時点でもまだ私が主犯だと少なくても寮長先生には思われていた筈。だからこそ、正直に話しているにも拘らず信じて貰えずにあれ程メチャクチャ殴られたのだと思っている。
 白状すれー!と言われながら殴られて白状するほど悔しいものは無い。だから、殴られれば殴られるほど向かって行くその性格は今も昔も変わらない。特に強い者には食いついて行く性格だ。後に、こんな性格だから社会に出てから危なく命を落としそうになった事もある。(その時の事はいずれ話す時があると思う。)

 脱走の足どりをお話しする前に、まずは脱走を実行する事となった理由(経緯)を話さなくては「たった一度の脱走」は語れない。

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二、主犯は相棒。その彼とは?また、その動機は!?

 脱走した相棒(T・F君)と私は、共に同じ寮に居たが特別仲が良かった訳ではないのだが・・・。

 彼は脱走をした年のその前の年の一時帰省で、「自分は学院を退院して高校に進学したい。だから学院から出してくれ!」と、かなり母親に頼んだと後に私も聞かされた。彼の親と寮長先生との間でいったいどの様な話し合いがなされたかは私には知る由も無いが、翌年の1月になっても2月になっても、そして冬が過ぎて春になっても退院させて貰えずに居た。その事も彼は私にこぼしていた。

 私は口が堅いから生徒の間では絶大な信用を得ていた。また、卒業してから知ったのだが、そんな立場に私が居た事を先生方も知っていたらしく、その事が私の学院生活においては非常に不利であった事もまた事実だ。

 でも私自身としては、先生方の信用や信頼を得るより、仲間や同じ生徒達に信用されていた事の方に馬鹿かもしれないが妙な優越感と誇りを持っていた。だから世渡り下手な、本当に要領の悪い奴だったとつくづく自分でもそう思う。(それは今でもだが・・・。)側からはそうは見えない様だが、そう思われるのもそれも損といえば損だ。
 自分にとって、強い者や難しいモノには、「なにくそー!」と向かってゆくタイプ。それは今でも変わらない・・・。ただ、今はその相手が自分の時がとても多くなっただけで・・・。

[一番手強い相手] ・・・ それは自分。
[一番の仲好し] ・・・・・ それも自分。
大喧嘩したり。また、慰め合ったり。・・・

 余談になるが、要領が良いからといって、それでその者の人間性や人格が良いとは言い難い。また、外面が好ければ良いほど人間性や性格が悪い人が多いのも確かだ。一見、人様の事を親身になって何やかんやと言っている者ほど、誰よりも自己中心的で腹黒いのもうなずける。

 このところの犯罪事件でも、犯人が住んで居た周りの住民にマスコミが話を聞きに行っても、その殆どは「まさか!そんな事をする人だとは思いもしなかった。」とよく聞く。昔の悪人はそれなりに悪人らしい顔つきもしていたし、罪を犯しているという自覚もあった。(私がそうだった様に)

 また、自覚があるからこそ不審な行動となる。だから、警察も刑事さんも犯人を見つけ易く捕まえる事が容易に出来た。が、今ではどうだろう?罪を犯す者に、罪を犯しているという自覚さえないのが多いから行動が自然に見える。だから不審者としての判断が付けづらい。
 昔は世界一優秀な犯罪検挙率を誇った日本の警察が、今ではどうだろう?真面目に自覚を持って警察のお仕事に従事している警察官にとってはやりきれない思いで一杯ではないだろうか?

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三、彼の動機、・・・そして脱走。

 「高校へ進学したいから学院から出してくれ〜!」と親に頼んでいた彼がさすがに痺れを切らし、或る日の学習時間みんなで勉強している時に私にメモを寄こした。そのメモには、「明日脱走するから一緒に来てくれ。」という文字が書かれてあった。
 だが、そのメモを見た時には別に驚きもしなかった。何故なら彼は、中学の高学年で後もう少しで退院出来る学年になっていたからだ。学院は、中学3年生の卒業と同時に退院するシステムになっていた。だから、ある先生がある特定の生徒を幾ら個人的に「もう一年置いておけ。」とそう思ったとしても、その生徒が中学3年を卒業となればどうしようも無いのだ。(この文章には深い意味が込められている。)今は違うらしいが・・・。

 彼から渡されたそのメモを見て、「俺を罠にはめようとしていやがる!何でだ!?」と思っていたから全く驚きはしなかった。それよりも、学習時間だからもちろん周りには他の生徒も当然居る。
 その生徒の中には以前書いたと思うが、「ラッパ」という何でもかんでも話に枝葉を付けては先生に云いつける生徒も居て、おちおち「ヘタ」な話は出来ない。そんな状況の中、彼は傍に来て「夜中に迎えに行くから起きて待っていてくれよ!必ず一緒に来てくれよ。」と耳元で囁いた。が、そうは言われても、「絶対罠だ!」と思っていたから相手にはしていなかった。他にも何か言われたが、覚えていない。

 こうして学習時間が終わり、自由時間も過ぎて9時の消灯時間。廊下で点呼を取り、みんな各自自分の部屋に行って床についた。

 床についてからは、「何か有るんじゃないか?」としばらくは起きていたと思うが、どれ程起きていたかは覚えていない。そんな心配をしていながらも睡魔には勝てず、いつの間にかグッスリと眠ってしまっていた。
 そして何時頃だったかは覚えていないが、そこへ彼、T・F君が私を起こしに来て、二度三度声を掛けられて私は起きた。寝ボケながら「本当にか!?」と何回か聞きながら、寝ボケたまま普段着に着替えてまだ真っ暗な外へ彼と一緒に出てしまったのだ。嘘の様な本当の話だ。

 外に出てからも、「おい、・・・!本当に逃げるのか!?本気か?」と何度も聞いた。
彼に「本気だ!なに言ってんのよ!早く逃げるぞ!」と言われながらも、私は「コイツ、何処で俺を罠にはめようとしているんだ!」と、疑いながら一緒に学院の敷地から出ようとしていた。

 当時、私達寮の生徒の間では、寮長先生の許可無く国道に足を踏み入れたら「脱走行為」とみなされるような、そんな基準みたいなものがあった。だから二人で国道の前まで来た時に、私からは「絶対に国道には足を踏み入れない!」という思いがあった。・・・そして彼に聞いた。
 「これから何処に行くのよ〜?行くならお前から先に行け〜!」と。そしたら彼は、「家に帰りたいんだ!帰って学院から出してくれと頼んで来たいんだ。だから一緒について来てくれ!」と、脱走する理由を話してくれた。・・・そして自分から先に国道に足を踏み入れて歩き始めた。その時始めて彼を信用した。・・・そして、「よし、分かった!一緒に逃げてやる!お前の頼みだから一緒に逃げてやる。」と言いながらついて行った。そして歩きながら私は捕まってからの事も考えていた。「きっとコイツ、自分独りじゃ嫌なんだろうな〜。帰ってきてからどれほど先生にヤキを入れられるか分かんないしな〜?・・・。」などと考えて歩いていた。それともう一つ。彼から逃げる理由を聞かされてついて行くと決めた時、妙に嬉しかった自分がいた。こうして彼と共に脱走した。

 その時の自分の気持ちが何故そんな気持ちになったかは分かるが、側から見れば何と馬鹿な訳の分からない「そんな事があるか?」と思われるだろう。第一、寮長先生にさえ「そんな馬鹿みたいな事が在るかー!!」と怒鳴られながら殴られたからな〜。

 でも形は違えど、そんな自分の心は今でも、いや!こんなご時世だからこそ、とても大切なモノの様な気がする。少なくとも、私はそんな自分の心は失いたくはないと思っている。

 まぁ、こうして何の計画も無く、着替えや食料さえも持たずにまだ夜も明けない真っ暗な国道沿いを車のヘッドライトが見える度に草むらに身を隠しては国道5号線を北へ向かって二人で歩き始めた。

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